在原業平、といえば昔男、
これは『伊勢物語』には「昔、男ありけり」という文章で始まる文章が多かったためで、昔男は色男で、恋の話満載というところです。実際の記録には業平は、美男子と伝わります。武官である近衛府の役人で中将、すぐれて格好良いポジションです。鷹狩など得意だったわけですから、「業平さま」という偶像でしょう。 恋は王朝物語文学のテーマの一であり、正統的な文学の題材で、「なさけあり」が褒め言葉とすれば、「なさけなし」は誹謗の意味さえあったといえます。 心が豊かであることが理想として何より尊ばれた日本の価値観を垣間見ることができます。
昔男はなかなか面白い男で、恋愛に一途で、第一段から「いちはやきみやび」をしてしまうし、身を用なきものとし「東下り」してしまうし、禁じられた恋もする、という所謂行動する業平像です。
謡曲では、そこから物語が始発します。文学に現れた業平の歌や行動に対するアンサーなのです。平安時代の王朝物語文学に呼応する関係を作り上げたのが謡曲の面白さと言えましょう。 正統的な古典文学に対するアンサー、何百年の時を超えて、応えてみる、それはロマンですね。室町時代に入るとそうした作品が出てきます。
問いはそのまま答えである
とも言えるし、武家社会になってもしばらくは公家の伝統が守られたという奇跡があったわけです。
和歌の三十一文字の伝統も、それを死守しようと歌論の中でさまざまな美学が生まれていくので、室町時代は王朝ルネサンスとも言えましょう。
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